2025/05/18
日本音楽能力検定協会です。
今回はコピーバンドにおける移調(ボーカルなどに合わせてキーを変更すること)の大変さと注意点について、詳しくご説明させていただきます。
移調とは、ボーカルのキーが合うように、またはその他の理由で、曲全体のキーを事前に変えることです。
基本的にはこの移調の際に大きく影響を受けるのはギターとベースです。
キーボードはトランスポーズ機能で音程を変更できるため、今回は主にバンドのギタリストおよびベーシストにとって移調がどのように大変かをご説明させていただきます。
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-目次-
1.開放弦問題
2.フレットは足りるか?問題
3.コードが複雑になる問題
4.アンサンブル問題
5.メンバーに負担がかかる問題
例えば1フレットと0フレットを使うフレーズなどでは、半音上げれば2フレットと1フレット、全音上げれば3フレットと2フレットのように可能ですが、
元々のフレーズが0フレットと5フレットを使用するフレーズなどでは、半音上げると1フレットと6フレットのようにかなり距離が出てしまいます。
開放弦を使うフレーズでは0フレットの場面では押弦する必要がないため、次に押さえる5フレットの上に指をスタンバイしておけば良いですが、半音上げて1フレットと6フレットになった場合は、1フレットを人差し指で押さえながら6フレットまで届かせなければならず、演奏が困難となります。
しかもそのフレーズがハードロックやヘビーメタルなどで頻繁に使用されるリフのパターンで、6弦0フレットを刻み続けながら間で5弦や4弦を使用するフレーズの場合はもはや純粋にフレットを上げて弾くことは不可能となります。
※キーを上げる場合にはカポタストを使用すればこの問題は解消されるのですが、その場合は次項の問題が発生します。
反対にキーを下げる場合には半音か全音程度であればチューニングを下げることで、演奏するポジションはそのまま移調することが出来ますが、♭4や♭5などにしたい場合はチューニングで対応すると弦が緩み過ぎてしまい、しっかりとした音が出なくなってしまいます。
チューニングには頼らず演奏するポジションを変更して対応する場合には、開放弦問題が大きくのしかかります。
開放弦を使用しているということはそれより下のポジションがないため、6弦の場合ではEより下げたい場合には1オクターブ上のD#やDを弾くことになってしまい、演奏しにくくなるだけでなく、音としてもアンサンブルとしても物足りないフレーズとなります。
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しかし、5フレットにカポを装着したということは単純に5フレット分短くなっているため、間奏のギターソロで20フレットなどを使用する場合、フレットが足りなくなってしまうという問題が発生します。
使っているギターが22フレットの場合には17フレットより上の音は演奏不能となり、24フレットのギターでも19フレットより上の音が出てくると対応できなくなります。
カポを使用して移調に対応する場合は、事前に楽譜の全パートを確認し、
・カポは何フレットに装着するか
・その結果フレットが足りなくなる場面はないか?
の2点を調べておきましょう。
こちらもカポタストで対応する場合にはコードフォームは変わらず演奏できますが、カポタストを使用しない場合にはギターのコードの押さえ方が全く違ったものとなります。
そして、ギタリストが二人いる場合などによく起こりがちな問題として、
・一人のギタリストはカポで対応している
・もう一人のギタリストはカポを使用せず、演奏ポジションを変えて対応している
という場合には、演奏が微妙に揃わず、アンサンブルに支障をきたします。
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プロの楽曲とは歌詞やコードだけでなく、楽器ひとつひとつの高さや奏法まで細かく計算され、総合的に素晴らしい楽曲になっています。
それを無理な移調のせいで変更してしまうと、せっかくの名曲や名フレーズを壊してしまう危険性があります。
専門的な言葉ではボイシングなどと呼びますが、同じ音でもオクターブ違いの高さ、同じコードでもインヴァージョン(転回形)によってドミソなのかミソドなのかソドミなのか、それらによって曲の響きはがらりと変わります。
また、ギターやベースの低音弦を主に利用するリフが多く使用されている曲の場合、移調によりキーを上げ過ぎてしまうと、せっかくの魅力的な低音弦のズンズンとしたリフが、高音のなんだか薄っぺらいフレーズになってしまいます。
さらに、プロの楽曲というものはボーカルのキーに合わせるだけでなく、他にも様々な理由でキーを決定しています。
例えばボーカルの音域的にはキーはC、C#、Dの3つのうちどれでも良く、どのキーになったとしてもボーカルは無理なくその魅力を最大限に発揮できるとします。
このような場合はボーカルのキーではなく別の理由でキーが決定されます。
・Cにすると演奏が簡単になる
・C#にした場合のサブドミナントの響きが作曲者のイメージに近い
・Dにすると候補の中では最もキーが高くなるため、華やかに聴こえる
など、それぞれのキーにそれぞれの良さが見えてきます。
逆に、
・Cにすると演奏は簡単になるが少し単調に聞こえ、ありきたりな響きとなってしまう
・C#にするとサブドミナントの響きはイメージ通りだが、演奏やコードの難易度が上がってしまう
・Dにすると全体的に高くなって華やかになるが、ギターリフが5弦開放を軸にしてしまうため、Cの時よりも重厚感が損なわれてしまう
など、それぞれのキーにそれぞれの欠点も存在します。
その中からメンバーと話し合いやセッション、リハーサルを重ね、最も良い選択肢を選んでいくわけです。
つまり、このようにしてプロがあらゆる側面から総合的に考えて最終決定したものが、皆様が知っているその曲のキーです。
それをアマチュアの考えでボーカルのキーが合わないからという理由で変更してしまうのは、非常にもったいないことであると言わざるを得ません。
料理で例えると表面的には同じ料理名で似たような味かも知れませんが、
・コクや深み
・計算され尽くした食感
・舌触り
・後味の良さ
など、プロが仕掛けた隠し味や微妙な違いを丸ごと変えてしまう、または損なってしまうことになるのです。
ボーカルに合わせてキーを変えることが悪いと言っているわけではありませんが、音楽に精通している人であればあるほど、その曲の本来の味わい深さを理解しているため、移調を嫌う傾向にあります。
逆に言うと、平気で移調をしてしまえるうちはまだその曲の味わい深さ、プロがそのキーにした本質的な理由に気付けないレベルということですので、ボーカルに合わせてキーを変えてしまっても本人たちはその損失に気付かないので問題ないとも言えます。
ボーカリストが自分のキーに合わないからと言って、カラオケ感覚で「この曲は+3にしてほしい」「次の曲は-5にしてほしい」などと注文をすると、メンバーに負担をかけるだけでなく嫌われてしまう可能性もあります。
カラオケではもちろんご自身のキーに合わせて変更する方が正しいのですが、バンドではオケの演奏は生身の人間が行うため、ボタン一つで変更するというわけにはいかず、事前にメンバーに相談することが必要です。
特にギターやベースの場合はイントロなどで印象的なリフ(繰り返すメインフレーズ)があり、そのフレーズを弾きたいからこそその曲を選んだという可能性があります。
その場合に移調などをお願いすると、ギタリストやベーシスト本人からすると「この曲のあのリフをそのまま弾きたかったのに、移調してポジションが変わったら全く別物になってしまった」という感覚になり、憧れの曲を演奏した気にならないのです。
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もちろん男性が女性ボーカルの曲を歌う場合、また、女性が男性ボーカルの曲を歌う場合には大抵の場合移調が必要となりますが、演奏の複雑化、アンサンブルの崩壊、メンバーへの負担などを避けたい場合には、
・その曲に合ったボーカルを探す
・ボーカルに合った曲に変更する
このどちらかにする方が、全方面から総合的に見て良い結果を生めるはずです。
例えて言うと移調とは、服のサイズに合わせて体の大きさを無理やり変えるようなものです。
着たい服がLサイズだからと言って自分の体を大きくしたり、着たい服がSサイズだからと言って自分の体を小さくする人がいないように、本来であれば自分の体に合わせて服のサイズを選ぶはずです。
それと同様に、ボーカルのキーに合わせて曲を選ぶ、または曲のキーに合わせてボーカルを選ぶの2つが正解であり、本来であればボーカルに合わせて曲のキーを変えるという行為は明らかに無理を生んでしまいます。
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今回はコピーバンドにおける移調(ボーカルなどに合わせてキーを変更すること)の大変さと注意点について、詳しくご説明させていただきます。
移調とは、ボーカルのキーが合うように、またはその他の理由で、曲全体のキーを事前に変えることです。
基本的にはこの移調の際に大きく影響を受けるのはギターとベースです。
キーボードはトランスポーズ機能で音程を変更できるため、今回は主にバンドのギタリストおよびベーシストにとって移調がどのように大変かをご説明させていただきます。
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-目次-
1.開放弦問題
2.フレットは足りるか?問題
3.コードが複雑になる問題
4.アンサンブル問題
5.メンバーに負担がかかる問題
1.開放弦問題
ギターやベースで演奏するリフなどに開放弦が絡んでいる場合は、純粋にフレットを上げて弾く、または下げて弾くことが困難となります。例えば1フレットと0フレットを使うフレーズなどでは、半音上げれば2フレットと1フレット、全音上げれば3フレットと2フレットのように可能ですが、
元々のフレーズが0フレットと5フレットを使用するフレーズなどでは、半音上げると1フレットと6フレットのようにかなり距離が出てしまいます。
開放弦を使うフレーズでは0フレットの場面では押弦する必要がないため、次に押さえる5フレットの上に指をスタンバイしておけば良いですが、半音上げて1フレットと6フレットになった場合は、1フレットを人差し指で押さえながら6フレットまで届かせなければならず、演奏が困難となります。
しかもそのフレーズがハードロックやヘビーメタルなどで頻繁に使用されるリフのパターンで、6弦0フレットを刻み続けながら間で5弦や4弦を使用するフレーズの場合はもはや純粋にフレットを上げて弾くことは不可能となります。
※キーを上げる場合にはカポタストを使用すればこの問題は解消されるのですが、その場合は次項の問題が発生します。
反対にキーを下げる場合には半音か全音程度であればチューニングを下げることで、演奏するポジションはそのまま移調することが出来ますが、♭4や♭5などにしたい場合はチューニングで対応すると弦が緩み過ぎてしまい、しっかりとした音が出なくなってしまいます。
チューニングには頼らず演奏するポジションを変更して対応する場合には、開放弦問題が大きくのしかかります。
開放弦を使用しているということはそれより下のポジションがないため、6弦の場合ではEより下げたい場合には1オクターブ上のD#やDを弾くことになってしまい、演奏しにくくなるだけでなく、音としてもアンサンブルとしても物足りないフレーズとなります。
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2.フレットは足りるか?
男性曲を女性が歌う場合に+5(#5)にしたい場合、カポタストを5フレットに装着し、本来の6フレットを1フレットのつもりで弾くと、開放弦の絡むフレーズでもそのまま+5に移調することが出来ます。しかし、5フレットにカポを装着したということは単純に5フレット分短くなっているため、間奏のギターソロで20フレットなどを使用する場合、フレットが足りなくなってしまうという問題が発生します。
使っているギターが22フレットの場合には17フレットより上の音は演奏不能となり、24フレットのギターでも19フレットより上の音が出てくると対応できなくなります。
カポを使用して移調に対応する場合は、事前に楽譜の全パートを確認し、
・カポは何フレットに装着するか
・その結果フレットが足りなくなる場面はないか?
の2点を調べておきましょう。
3.コードが複雑になる
原曲キーではC-G-Am-Em-F-C-F-Gのカノン進行だった曲を半音上げると、C#-G#-A#m-Fm-F#-C#-F#-G#となります。こちらもカポタストで対応する場合にはコードフォームは変わらず演奏できますが、カポタストを使用しない場合にはギターのコードの押さえ方が全く違ったものとなります。
そして、ギタリストが二人いる場合などによく起こりがちな問題として、
・一人のギタリストはカポで対応している
・もう一人のギタリストはカポを使用せず、演奏ポジションを変えて対応している
という場合には、演奏が微妙に揃わず、アンサンブルに支障をきたします。
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5.アンサンブル問題
例えばギターとベースがユニゾンで同じフレーズやリフを弾く場合などに、本来のキーであれば1オクターブ違いだったはずのフレーズが、無理な移調のせいで演奏するポジションが変わるため、2オクターブ違いになったり、全く同じ高さになってしまう場合があります。プロの楽曲とは歌詞やコードだけでなく、楽器ひとつひとつの高さや奏法まで細かく計算され、総合的に素晴らしい楽曲になっています。
それを無理な移調のせいで変更してしまうと、せっかくの名曲や名フレーズを壊してしまう危険性があります。
専門的な言葉ではボイシングなどと呼びますが、同じ音でもオクターブ違いの高さ、同じコードでもインヴァージョン(転回形)によってドミソなのかミソドなのかソドミなのか、それらによって曲の響きはがらりと変わります。
また、ギターやベースの低音弦を主に利用するリフが多く使用されている曲の場合、移調によりキーを上げ過ぎてしまうと、せっかくの魅力的な低音弦のズンズンとしたリフが、高音のなんだか薄っぺらいフレーズになってしまいます。
さらに、プロの楽曲というものはボーカルのキーに合わせるだけでなく、他にも様々な理由でキーを決定しています。
例えばボーカルの音域的にはキーはC、C#、Dの3つのうちどれでも良く、どのキーになったとしてもボーカルは無理なくその魅力を最大限に発揮できるとします。
このような場合はボーカルのキーではなく別の理由でキーが決定されます。
・Cにすると演奏が簡単になる
・C#にした場合のサブドミナントの響きが作曲者のイメージに近い
・Dにすると候補の中では最もキーが高くなるため、華やかに聴こえる
など、それぞれのキーにそれぞれの良さが見えてきます。
逆に、
・Cにすると演奏は簡単になるが少し単調に聞こえ、ありきたりな響きとなってしまう
・C#にするとサブドミナントの響きはイメージ通りだが、演奏やコードの難易度が上がってしまう
・Dにすると全体的に高くなって華やかになるが、ギターリフが5弦開放を軸にしてしまうため、Cの時よりも重厚感が損なわれてしまう
など、それぞれのキーにそれぞれの欠点も存在します。
その中からメンバーと話し合いやセッション、リハーサルを重ね、最も良い選択肢を選んでいくわけです。
つまり、このようにしてプロがあらゆる側面から総合的に考えて最終決定したものが、皆様が知っているその曲のキーです。
それをアマチュアの考えでボーカルのキーが合わないからという理由で変更してしまうのは、非常にもったいないことであると言わざるを得ません。
料理で例えると表面的には同じ料理名で似たような味かも知れませんが、
・コクや深み
・計算され尽くした食感
・舌触り
・後味の良さ
など、プロが仕掛けた隠し味や微妙な違いを丸ごと変えてしまう、または損なってしまうことになるのです。
ボーカルに合わせてキーを変えることが悪いと言っているわけではありませんが、音楽に精通している人であればあるほど、その曲の本来の味わい深さを理解しているため、移調を嫌う傾向にあります。
逆に言うと、平気で移調をしてしまえるうちはまだその曲の味わい深さ、プロがそのキーにした本質的な理由に気付けないレベルということですので、ボーカルに合わせてキーを変えてしまっても本人たちはその損失に気付かないので問題ないとも言えます。
5.メンバーに負担がかかる
バンドで移調を行うためには、ギタリストとベーシストに特に負担がかかります。ボーカリストが自分のキーに合わないからと言って、カラオケ感覚で「この曲は+3にしてほしい」「次の曲は-5にしてほしい」などと注文をすると、メンバーに負担をかけるだけでなく嫌われてしまう可能性もあります。
カラオケではもちろんご自身のキーに合わせて変更する方が正しいのですが、バンドではオケの演奏は生身の人間が行うため、ボタン一つで変更するというわけにはいかず、事前にメンバーに相談することが必要です。
特にギターやベースの場合はイントロなどで印象的なリフ(繰り返すメインフレーズ)があり、そのフレーズを弾きたいからこそその曲を選んだという可能性があります。
その場合に移調などをお願いすると、ギタリストやベーシスト本人からすると「この曲のあのリフをそのまま弾きたかったのに、移調してポジションが変わったら全く別物になってしまった」という感覚になり、憧れの曲を演奏した気にならないのです。
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まとめ
最後に、コピーバンドにおける移調(キーの変更)は、可能な限りしない方が良いということが分かります。もちろん男性が女性ボーカルの曲を歌う場合、また、女性が男性ボーカルの曲を歌う場合には大抵の場合移調が必要となりますが、演奏の複雑化、アンサンブルの崩壊、メンバーへの負担などを避けたい場合には、
・その曲に合ったボーカルを探す
・ボーカルに合った曲に変更する
このどちらかにする方が、全方面から総合的に見て良い結果を生めるはずです。
例えて言うと移調とは、服のサイズに合わせて体の大きさを無理やり変えるようなものです。
着たい服がLサイズだからと言って自分の体を大きくしたり、着たい服がSサイズだからと言って自分の体を小さくする人がいないように、本来であれば自分の体に合わせて服のサイズを選ぶはずです。
それと同様に、ボーカルのキーに合わせて曲を選ぶ、または曲のキーに合わせてボーカルを選ぶの2つが正解であり、本来であればボーカルに合わせて曲のキーを変えるという行為は明らかに無理を生んでしまいます。
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