クロマチックチューナーの欠点と限界/日本音楽能力検定協会

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日本音楽能力検定協会です。
今回は普段皆様が使用しているクロマチックチューナーの欠点と限界について、詳しく解説させていただきます。
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【1】クロマチックチューナーの構造と本質的な限界

クロマチックチューナーの仕組み

基本的にはFFT(高速フーリエ変換)というアルゴリズムで音の周波数成分を解析している。
※一番強く検出された基音を、12平均律の音名にマッピングして表示。

限界1:12平均律に強制的に当てはめる

•平均律では、たとえば完全五度(G)はCから数えて約702セント。
•しかし純正律では完全五度は3:2の比=約701.96セント。
•微差ではあるものの、和音になると耳には「濁り」としてハッキリと感じられる。

例:ピアノのDコード(D-F#-A)をチューナーで合わせたギターと一緒に鳴らすと、和音が濁ることがある。

12平均律とは?
「12平均律(じゅうにへいきんりつ)」とは、1オクターブを12個の等しい音程(半音)に分ける調律法のことです。現代の西洋音楽(クラシック、ポップス、ジャズなど)ではもっとも一般的な調律法です。

■基本の仕組み
•オクターブ:例えばド(C)から次のド(C)まで。
•その間を12個の等間隔な音(半音)で分ける。
•各音の周波数比は 隣の音との比が常に一定。つまり、すべての半音は同じ間隔(音程)です。

■数学的には?
•オクターブ上の音は周波数が2倍になります。
•なので1オクターブを12等分すると…隣の音の周波数比は 2の12乗根(2^(1/12)) ≒ 1.059463
•たとえば、A(ラ)= 440Hz の隣の A#(ラ#)は
440 × 2^(1/12) ≒ 466.16Hz

■メリット
•すべての調(キー)で同じ構造になる→転調が自由
•ピアノなど、固定された音高の楽器に適している。

■デメリット
•純正律に比べて、一部の音程が完全に美しい響きではない。
•特に和音の響きに敏感な人には、若干の「濁り」が感じられることも。


限界2:倍音の扱いが単純

•多くの楽器では、基音の他に2倍、3倍、4倍…と整数倍の周波数(倍音)が鳴っている。
•クロマチックチューナーはこれらの構成を無視し、最も強い周波数=基音を検出するだけ。

結果:

•倍音の「整合感」を無視したチューニングになる
•特に管楽器・弦楽器では、「響きが悪いけどピッチは合ってる」状態になる

倍音とは?
倍音(ばいおん)とは、ある音(基本となる音=基音)と一緒に自然に鳴っている、基音よりも高い周波数の音のことです。音の「色」や「キャラクター」を決める、とても重要な要素です。

例えばギターの弦を鳴らすと「ド」の音(=基音)が聞こえますが、実はその「ド」には、うっすら「ソ」や「ミ」などの音も混ざっています。この混ざっている高い音たちが倍音です。

倍音の仕組み


このように倍音は規則的な音階になっており、和音や音色のベースになっています。

倍音があると何が変わる?
•同じ「ド」でも、ピアノとバイオリンとギターなどで違って聞こえるのは、この倍音の違いが原因です。
•倍音が多く含まれていると「明るく」「華やかに」聞こえ、少ないと「柔らかく」「暗く」聞こえます。
•ボーカルの歌声でもミックスボイスやヘッドボイスは倍音の含まれ方が違うため、響きが変わります。


◆限界3:機械的・視覚的依存

•目で「針が合ってるか」を見てしまうと、耳が育たない
•実際の演奏では他の奏者のピッチを聞きながら調整する必要があるため、視覚依存は長期的にデメリット

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【2】耳を使った「楽器本来のチューニング」

クロマチックチューナーの誕生以前、チューニングは耳で行っていました。そのためその楽器本来の響きや倍音を得ることが出来たわけですが、これは非常に高度な感覚を必要とするため、限られた人しか正しいチューニングが出来なかったのです。
そこで誕生したクロマチックチューナーですが、誰でも視覚的にチューニングが出来るようになった反面、楽器本来の響きや倍音を無理やり基準に合わせてしまうため、「クロマチックチューナーが音楽をダメにした」とさえ表現される場合があります。
理想としては、クロマチックチューナーを基準にチューニングを行った後、最終的には耳で「音楽的に正しい」響きを作る必要があります。


ピタゴラス音律・純正律の基礎

ピタゴラス音律(主に旋律重視)
ピタゴラス音律(ピタゴラスおんりつ、Pythagorean tuning)は、古代ギリシャの哲学者ピタゴラスに由来する音の調律法で、音と数学の関係を最初に体系化したとされる音律のひとつです。

ピタゴラス音律の基本的な考え方
この音律は、「完全五度(周波数比3:2)を基準に音を積み重ねていく」というシンプルな原理に基づいています。

•C(ド)を基準にすると、
•G(ソ)はCの完全五度 → 周波数比は 3:2
•D(レ)はGの完全五度 → G × (3:2)
•A(ラ)はDの完全五度 → D × (3:2)
というように順番に積み重ねていきます。

このようにして、完全五度を12回重ねて音階を作っていくのがピタゴラス音律です。

特徴
•完全五度が美しい:すべての五度が数学的に純正(3:2)なので、とても澄んだ響きになります。
•三度が濁る:逆に、長三度(例:C→E)は周波数比がピタゴラス音律では「81:64」となり、純正な「5:4」より高く、濁った響きになります。
•純正律とは異なる:純正律は和音(特に長三和音)を美しく響かせるための調律ですが、ピタゴラス音律は五度を基準にしているため、和音の響きにはあまり配慮されていません。
•ピタゴラスコンマの問題:完全五度を12回重ねると、オクターブ(2のn乗)にぴったり戻ってこないというずれが生じます(これをピタゴラス・コンマといいます)。

実用面
•中世ヨーロッパの教会音楽などでは、この音律が長く使われていました。
•ただし、調性が発展して転調が多くなると不便なため、やがて純正律や平均律が登場して主流になっていきます。

純正律(ハーモニー重視)
純正律(じゅんせいりつ)とは、音程を自然倍音の比率(整数比)に基づいて調律する方法です。和音が非常に美しく、濁りが少ないのが特徴です。

純正律の特徴
基本原理:音と音の周波数の比を、自然倍音(物理的に自然に鳴る音)に従った簡単な整数比にします。
•完全五度:3:2
•完全四度:4:3
•長三度:5:4
•短三度:6:5
長所:
•特定の調(たとえばCメジャーなど)で演奏したときに、和音が非常に美しく、倍音が共鳴しやすい。
•人間の耳にとって「最も心地よい」響きを実現できる。
短所:
•すべての調で同じように使えない。ある調では綺麗に響いても、他の調では不協和になる(移調に弱い)。
•楽器によっては、純正律で調律するのが難しい(ピアノなど)。

ピタゴラス音律との違い
• ピタゴラス音律:完全五度(3:2)を積み重ねていく方式 → 長三度などは純正でない。
• 純正律:五度・三度ともに整数比で調律 → 和音がより美しい。

現代での使われ方
•合唱や弦楽四重奏など、人間がリアルタイムで音を調整できる場面では純正律に近づけることが多い。
•一方で、固定音程の楽器(ピアノなど)では使いにくいため、平均律が一般的に使われています。

実践:純正律的チューニングのやり方

たとえばバイオリンや声楽での「Cメジャーで美しく響かせるチューニング」は下記のようになります。
1.基準音A(440Hz)をチューナーで合わせる
2.Gを「純正五度」(Aに対して2/3の周波数 ≈ 293.33Hz)に耳で合わせる
3.CをGに対して純正五度(3:2)になるよう耳で取る
4.EをCに対して純正長三度(5:4)にする(ピタゴラス的Eよりやや低め)

結果:
和音(C-E-G)が極端に「澄んだ音」に聴こえる
→教会音楽や無伴奏の合唱でこの技法がよく使われる

アンサンブルにおける実際の運用

•管楽器:その場でリップ(唇)や息のスピードで音程を調整する
•弦楽器:指の位置を瞬時に微調整して和音の響きを整える
•声楽:相手のハーモニーを聴いて、自分の音程をスライドさせる

「正しい音程」よりも「音楽的に合っている音程」が優先される

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【3】耳を育てるトレーニング(実践法)

1.純正律ハーモニートレーニング

•ピアノで「C」と「E」の音を鳴らして録音
•自分で「E」の音を声や楽器で再現し、純正な響きになるよう微調整する
•ピッチがわずかに低くなるはず(チューナー上ではEが少し下に出る)

2.差音(ビート)を聴く練習

•二人でユニゾンや長三度・完全五度を出す
•音程がズレていると「うなり(ビート音)」が発生
•音程が合うとビートが止まり、「合った」と直感的にわかる

差音とは?
「差音(さおん)」とは、2つの異なる音が同時に鳴るときに人間の耳が知覚する、実際には存在しない幻の音のことです。特に音響学や音楽理論で扱われる現象で、以下のような特徴があります。

差音の仕組み
差音は、次の式で表されます:
差音の周波数 = 高い音の周波数 − 低い音の周波数

たとえば800Hzと1000Hzの音を同時に鳴らすと、1000−800=200Hzの差音が聞こえることがあります。
これは、実際にスピーカーなどから出ている音ではなく、耳や脳が自動的に作り出している幻聴的な音です。

差音が聞こえる例
•オルガンやアコーディオンなど、純粋な音(倍音の少ない音)を出す楽器でよく聞かれます。
•バイオリンやギターの倍音奏法でも、差音が感じられることがあります。
•和音やハーモニーの中で、差音が生まれて音に厚みや奥行きを与えることもあります。

差音の種類
1.差音(difference tone):上記のように、2つの音の差から生じる幻の音
2.和音(sum tone):2つの音の和(足し算)から生じる幻の音(こちらはあまり強くは聞こえません)

差音の応用例
•バッハなどのバロック音楽では、調律されたオルガンの差音が音楽表現の一部になることがあります。
•調律師や一部の上級耳コピプレイヤーは、差音を使って音程のずれを判断することもあります。
実際にヘッドホンなどで800Hzと1000Hzを同時に鳴らしてみると、200Hzの低い「ブーン」という音が聞こえてくるはずです。


3.ハーモニー耳コピ

•アカペラグループ(Pentatonix, The Real Groupなど)の和音を耳コピして再現
•どの音が「濁って聴こえるか」チェック

まとめ:正確なピッチと「音楽的な調和」は別物

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